食養生ジュニアコーディネーター 西田 哲之

食養生ジュニア
コーディネーター
西田 哲之

薬膳コーディネーター 大柴 朗子

薬膳コーディネーター
大柴 朗子

脈々と受け継がれてきた健康のための食の知恵「食養生」

食養生とは、「何をどのように食べるのが、健康維持のために良いのか」という、多くの先人から脈々と受け継がれてきた、食と健康に関する知恵のことです。

現存する日本最古の医学書で平安時代に書かれた「医心方」には、すでに食事による健康法が記されています。近代では、明治時代の軍医・石塚左玄が、「化学的食養長寿論」を著し、「心身は食によって作られ、食が左右する」と、医食同源としての「食養(食物養生法を縮めたもの)」を提唱しています。

私たちの体の細胞は、体外から取り入れる「食べ物」からできています。私たちの血となり肉となる「食べ物」から、日々の健康を養い、自然治癒力を高めましょう。

健康の源は「気、血、津液」と「精」

食養生の基となるのは、東洋医学の影響を受けた日本漢方の考え方です。
東洋医学には、「気・血・津液」という考え方があります。

気 血 津液 気には、体内にあるすべての器官と組織の新陳代謝の促進、体熱の産生と維持、病気から体を守る作用などがあります。 血とは血液、津液とは体内の正常な水分の総称です。血と津液には、ともに体の隅々に栄養を補給したり、体を潤す作用などがあります。

日々の健康を維持するためには「気、血、津液」が不可欠です。健康とは「気」が巡っている、すなわち恒常性が維持されている状態のこと。「気、血、津液」の根源は「精」と呼ばれる生命エネルギーで、これには、両親から受け継いだ「先天の精」と、食べ物や日光、空気から得られる「後天の精」があります。

病をもたらす3つの原因

私たちが普通に使っている「病気」という言葉は、元々「気」が「病む」ことを指しています。「病は気から」という慣用語はここから出来た言葉です。この「気が病む」状態を作り出す原因を、東洋医学では内因、外因、不内外因の3つに分けています。

1.内因

体の内側から生じる原因のことで、主に感情のことを指します。強かったり、長く続いたりすることで、体の不調を引き起こします。(ストレスが原因で胃潰瘍になるなど)

2.外因

体の外側から侵入してくる原因のことで、主に気候の変化のことを指します。気温や湿度が変化することによって、体の不調を引き起こします。(高温多湿で胃腸が弱り食欲が減退するなど)

3.不内外因

「内因」「外因」にも当てはまらない原因のことで、飲食の不摂生や心身の疲労、事故による外傷、過度の飲酒などが当てはまります。(カロリーを取り過ぎて脂肪肝になるなど)

生活リズムが身体に与える影響

人間が持つ体内時計のリズムは1日25時間ですが、現実世界のリズムは1日24時間です。この1時間のズレを、人間の体は毎朝太陽の光を浴びることで調整しています。

ホルモン分泌をはじめ、脳波、細胞の再生など、多くの生命活動に、このリズムが関わっていますが、体は24時間周期で反復するリズムを覚える性質があるため、毎日決まった時間に決まったこと(起床、就寝、食事など)を続けることが、体への負担を軽減するうえで最も有効です。

例えば、肝臓には、寝ている間は使わない血液をしまっておき、目が覚めて活動を始めると、この血液を再び全身に送り出す作用があります。そのため、二度寝をすると必然的に血液を出し入れする回数が増え、24時間周期のリズムが崩れてしまうのです。これが肝機能に負担と混乱を招く原因となります。

すべてのリズムを一定に保つことは難しくても、朝の起床時間だけでも一定に保つことができれば、体温上昇のタイミングが一定になり、体への負担はグッと小さくなります。ぜひ心がけてみてください。

食養生での重要な考え方「一物全体食」(いちぶつぜんたいしょく)

食養生には「一物全体食」という考え方があります。これは、極端な例でいうと、「米は精米しない」「野菜は皮を剥かず根や葉も食べる」「煮物、鍋物をするときはアクを取らない」「魚は頭から尻尾まで丸ごと食べる」など、食材を丸ごと食べることを指し、食養生における重要な考え方のひとつです。

例えば、ビタミンCはたんぱく質とともに摂取すればコラーゲンの生成を助け、鉄分とともに摂取すればその吸収を促進し、ビタミンEとともに摂取すれば抗酸化作用が高まります。つまり、栄養素はほとんど単体では意味がなく、他の要素と複雑に絡み合って効果を発揮するものなのです。食材を丸ごと食べるということは、その複雑な働きをする栄養素を、自然のままの組み合わせ、バランスで摂取することに他なりません。

このように食事から「精」を補い、「気、血、津液」のバランスを整えることで、健康を維持することができます。逆に「気、血、津液」が過剰になったり、その流れが滞ったりすると、不調の原因になってしまうのです。また、この3つのバランスや状態をみることで、個人の体の特徴を知ることができます。

体の不調=「未病」を食材で改善する「薬膳」

東洋医学では、本格的な病気になる前の段階(病気にはなっていないが病気に向かっている状態)のことを「未病」と呼びます。「未病」とはすなわち、体内のバランスが乱れている状態のこと。このバランスの偏りは「体質」と言い換えることもできます。東洋医学では、この「未病」を治すことこそが、健康を維持するうえで、重要であると考えられています。

東洋医学でいう体質は、<気虚・陽虚・血虚・陰虚・気滞・湿熱・瘀血・湿痰>に分類されます。それぞれ個人の持っている体質や不調には「適した食材・不適な食材」があるため、その体質・不調の傾向がわかれば、足りない部分を補ったり、過剰な部分を抑えたりといった調整を、食材の力を借りて行うことができます。これが「医食同源」の考え方です。実際に食材が持つ効能によって、毎日の食事から体の不調=「未病」の改善を図ることが「薬膳」です。

「薬膳」というと、気、血、津液、気虚など、聞きなれない言葉ばかりで、難しく思われがちですが、実際は、昔から伝わる「しじみの味噌汁は二日酔いに効く」といったような、とても身近にある「食養生」の実践法です。以下で体質・体調に合わせて選んだ食材と、その効果的な食べ方を簡単にご紹介します。

こんにゃく~便秘がちな人・吹き出物が出る方に~

便秘解消ダイエット

こんにゃく 写真

体の余分な熱を鎮めて便意を促す作用がありますが、胃腸が弱く下痢傾向の方にはおすすめできません。
食物繊維が胃腸の中のコレステロールを排出し、吸収を抑えます。成分の97%は水で、糖成分グルコマンナンはほとんど消化吸収されず、非常にローカロリー(100gで6kcal)。
血行を良くして、傷口の腫れを解消する効果もあり、コンニャクを同量の絹ごし豆腐と一緒にすり潰して、化膿した患部に貼る家庭療法もあります。

きゅうり~むくみとり・利尿作用~

美容むくみ利尿作用コレステロール降下血圧低下

きゅうり 写真

きゅうりに含まれるマロン酸は、糖から脂肪への転換を阻害する働きがあり、体脂肪の増加を抑制します。
体にこもった余分な熱を冷まし、潤いを与えるので、顔パックややけどの際にも使えます。ただし多食すると内臓を冷やしすぎてしまうので注意が必要です。
カリウムも豊富ですが、カリウムは水に溶け出しやすいので、むくみ取りや利尿作用を促すためには、煮汁を軽く飲むか、軽く炒めるのが効果的。
また、きゅうりに含まれるアスコルビナーゼという酵素は、ビタミンCを破壊するので、酢で処理するか、加熱するのがおすすめです。

大豆~タンパク質の倉庫~

冷え性むくみだるさコレステロール降下

だいず 写真

大豆に含まれるサポニンとレシチンがコレステロール値をさげ、中性脂肪を減らすため、脂質異常症の予防効果が期待できます。
余分な水分を排出する作用もあり、むくみ、体のだるさが気になる方にも有効ですが、腎炎を患い、むくみがあったり、尿の出が少ない方には、負担となるため、あまり適しません。
納豆はゆでた大豆を発酵させて作られるので、血の巡りを活性化させ、体を温める働きがあります。

セロリ

利尿作用血圧低下コレステロール降下ストレス解消

セロリ 写真

カリウムを多く含み、利尿作用により血圧を低下させます。乾燥するとこの作用はなくなるので、生で食べるか、スープにして飲むのがおすすめ。
イカやエビなどタウリンを含み、肉よりカロリーの低い海鮮類と組み合わせると、セロリの食物繊維により、コレステロール値を下げる機能を高めることができます。
セロリの独特の香りの元、アピインには、イライラや怒りなどの感情を落ち着かせる働きがあります。

いちご

美肌アンチエイジング風邪予防

いちご 写真

体内の余分な熱を収めて、ストレスを解消する効果があるため、発熱はあるが寒気はせず、口が乾いて水がほしい時に、症状を軽減することができます。
ビタミンCが豊富なため、新陳代謝を活発にします。
いちごの繊維は体に水を溜めやすいため、胃腸が弱い方や冷え症の方は控えめに。いちごは一日6個が目安。数回に分けて食べるようにしましょう。

一つの食材を摂りすぎると、栄養バランスを崩してしまう恐れがあります。体に良いからといって、その食材だけを摂りすぎることがないように注意してください。